ウクライナとロシアの位置

ウクライナ | ロシア

緊迫するロシアとウクライナ

ロシアはウクライナ国境付近に部隊や戦車、重火器を集結。西側諸国はロシアが侵攻に踏み切る可能性を憂慮している

ロシアがウクライナ国境付近に約10万人の部隊を送り込み、ウクライナとロシアの間の緊張はこの数カ月高まる一方だ。

米英をはじめとする西側諸国は、ロシアが、西側の安全保障同盟である北大西洋条約機構(NATO)にウクライナが加入するのを断固阻止する試みの一環として侵攻を準備しているのではないかと危惧している。

ロシアは侵攻の意図を繰り返し否定してきた。だがロシア軍は2014年、ウクライナ南部のクリミア半島を占領し、ウクライナ東部の一帯を実効支配する分離派勢力を支援してきた。

ロシア軍部隊の集結状況は衛星画像に捉えられており、ウクライナの北部、東部、南部の国境を囲むように基地に部隊が集まっているのがわかる。

12月末、米国を本拠とする宇宙技術企業マクサー・テクノロジーは、「当社の高解像度衛星画像では、今月に入ってクリミア半島及びウクライナ国境に近い西部ロシアの複数の演習地で、ロシア軍の新たな動きが数多く見られた」と表明した。

マクサーは、10月以降に国境地帯に新たに持ち込まれたロシア軍の軍備の中に、歩兵戦闘車BMPのほか、自走砲や対空兵器の存在を確認している。

以下の画像からも、ウクライナに近い複数拠点における過去2年間のロシア軍の増強ぶりが分かる。

A small locator map showing エリニャ.

エリニャ

北緯54°36.6845'・東経33°10.5163'

2021年11月1日撮影。エリニャにロシア軍部隊と軍事車両が展開している。 2021年8月23日撮影。エリニャの平原を走る道路に動きはみられない。
2021年8月23日
2021年11月1日
A small locator map showing ワリューキ.

ワリューキ

北緯50°17.2932'・東経38°0.7483'

2021年11月17日撮影。ワリューキの軍事施設に兵員輸送車と軍用トラックが駐車されている。 2020年4月8日撮影。ワリューキには穀物畑が広がっている。
2020年4月8日
2021年11月17日
A small locator map showing クリンツィ.

クリンツィ

北緯52°44.3314'N・東経32°1.5994'

2021年11月1日撮影。クリンツィの軍事拠点にトラックが駐車されている。 2020年6月10日撮影。クリンツィの森の中の道に動きは見られない。
2020年6月10日
2021年11月1日

ロシアによるクリミア半島の併合以降、ウクライナの防衛費は、2014年のGDP比わずか2%から、現在では約6%まで増大した。

ウクライナの兵力は現役軍人で20万人以上。ロシアの4分の1にも満たないが、2014年以降は西側諸国による軍事援助により大幅に増強されている。米国からは対戦車ミサイル「ジャベリン」、トルコからは無人機(ドローン)が提供されている。

ロシアのロストフ州で行われた軍事演習中、歩兵戦闘車の前を歩く兵士。2021年12月10日撮影(2022年 ロイター/Sergey Pivovarov)
ロシアのロストフ州で行われた軍事演習中、歩兵戦闘車の前を歩く兵士。2021年12月10日撮影(2022年 ロイター/Sergey Pivovarov)

想定される侵攻のパターン

ロシアはウクライナ侵攻計画を断固否定しているが、軍事アナリストはロシア軍はいつでもウクライナに侵攻できる態勢にあるとみている。

米シンクタンク戦略国際問題研究所(CSIS)のセス・ジョーンズ、フィリップ・ワシエレフスキー両氏は、ロシアの初動として、ウクライナの軍事指揮統制システムや公共通信、電力網を標的としたサイバー攻撃などが想定されると指摘。

次に、空爆とミサイル攻撃によりウクライナ空軍に打撃を与えた上で、地上部隊が数百キロにわたり前進すると考えられるという。CSISでは、ロシア軍部隊が侵攻する場合、ロシア政府が何を目的とするかによって、そのルートは複数想定できるとしている。その多くは鉄道沿いだ。

早期に行動を起こさない場合、ロシアは夏まで進攻を待たなければならなくなる。3月にはこの地域は悪名高い「ラスプティツア」と呼ばれる時期となり、道や田野は雪解けによる泥でぬかるんだ状態となるからだ。

CSISのジョーンズ氏は、泥で機甲師団の進軍速度が低下してボトルネックが生じ、対戦車ミサイルの標的になりかねないと説明する。

ウクライナのヘルソン州で行われた軍事演習で、多連装ロケット砲の近くに立つ兵士。今月19日撮影。提供写真(2022年 ロイター/Ukrainian Defence Ministry)
ウクライナのヘルソン州で行われた軍事演習で、多連装ロケット砲の近くに立つ兵士。今月19日撮影。提供写真(2022年 ロイター/Ukrainian Defence Ministry)
ウクライナのハリコフ州で軍事演習に参加する兵士。2021年12月20日撮影。提供写真(2022年 ロイター/Press Service of the 92nd Separate Mechanised Brigade)
​​ウクライナのハリコフ州で軍事演習に参加する兵士。2021年12月20日撮影。提供写真(2022年 ロイター/Press Service of the 92nd Separate Mechanised Brigade)
ウクライナ軍への戦車、装甲兵員輸送車、軍用車両の引き渡しのリハーサル。キエフで2021年12月6日撮影(2022年 ロイター/Gleb Garanich)
ウクライナ軍への戦車、装甲兵員輸送車、軍用車両の引き渡しのリハーサル。キエフで2021年12月6日撮影(2022年 ロイター/Gleb Garanich)
  • ウクライナのヘルソン州で行われた軍事演習で、多連装ロケット砲の近くに立つ兵士。今月19日撮影。提供写真(2022年 ロイター/Ukrainian Defence Ministry)
  • ​​ウクライナのハリコフ州で軍事演習に参加する兵士。2021年12月20日撮影。提供写真(2022年 ロイター/Press Service of the 92nd Separate Mechanised Brigade)
  • ウクライナ軍への戦車、装甲兵員輸送車、軍用車両の引き渡しのリハーサル。キエフで2021年12月6日撮影(2022年 ロイター/Gleb Garanich)

ロシアとの対立でウクライナはどう変わったか

ウクライナはロシアと西側諸国の関係における火種となっている。緊張状態は2014年のクリミア半島併合のずっと前から始まっていた。

2004年、ウクライナ大統領選挙をきっかけに大規模な抗議行動が起き、いわゆる「オレンジ革命」が発生した。ウクライナ最高裁が投票結果の無効を決定して再投票を命じ、親欧州派の野党指導者ビクトル・ユシチェンコ氏が大統領に選出された。この抗議行動とユシチェンコ氏の当選が、ウクライナがロシアの影響下から離れ、欧州との緊密な協調へと動き出す最初の兆候となった。

2013年、街頭での抗議行動が再燃した。ビクトル・ヤヌコビッチ大統領(当時)の政権が、欧州連合との通商・連携協議を停止し、代わってロシア政府との経済関係を復活させると突然発表したためだ。抗議参加者は数カ月にわたってキエフで大規模な抗議集会を開催し、同年末には80万人もの参加者を数えるに至った。

ロシアがウクライナにこだわる理由

ウクライナでは、特に都市化が進み工業の盛んな東部でロシアの影響力が大きい。ロシアとの国境沿いの多くの地域や南部のクリミア半島では、主としてロシア語が用いられている。

現在のロシアとウクライナに別れる地域のつながりは、キエフがスラブ系民族によるキエフ大公国(キエフルーシ)の最初の首都となった9世紀にさかのぼる。キエフ大公国は988年、ウラジーミル大公の統治下でキリスト教(正教会)を国教とした。

ロシアのプーチン大統領は2021年6月、ロシア人とウクライナ人は、「単一の歴史的かつ精神的な空間」を共有する単一民族であり、最近両国を隔てている「壁」は悲劇的であると述べた。ウクライナ政府はこうした主張を否定している。

プーチン大統領が危惧しているのは、西側諸国との関係強化によってウクライナがロシアを標的とするNATOミサイルの発射拠点となる可能性、そして欧米寄りの考えを持つロシア国民によるプーチン大統領への抵抗に火をつけることである。NATOがウクライナの加盟を承認し、ロシアを攻撃可能な兵器がウクライナに配備されるという展望は、ロシア政府から見れば「レッドライン」(越えてはならない一線)なのだ。

ウクライナの西側シフトは貿易にも明白に現れている。ウクライナの国際貿易額のうち、ロシアのシェアは現在8%にすぎないが、対EUのシェアは42%に上昇している。

ロシアの次の動きを断定することはできないが、ウクライナでの戦争勃発は両国に大きな犠牲をもたらすだろうという点でアナリストらの見解は一致している。

西側の軍事アナリストらは、ロシアが戦わずしてクリミア半島を占拠した2014年に比べ、ウクライナ陸軍の練度は上がり、装備も高度になっている上、自国中心部の防衛に向けて士気も高いと指摘する。

西側諸国はロシアによる侵攻に備えて厳しい制裁を準備する一方で、エスカレートする対立を緩和しようと瀬戸際の外交対話を続けている。

出典

ウプサラ紛争データプログラム「Georeferenced Event Dataset Version 21.1」、ウプサラ大学、マクサー・テクノロジーズの衛星画像(グーグルアース経由)、ナチュラルアース、オープンストリートマップ、戦略国際問題研究所、ウクライナ国家統計局、国際通貨基金、国連人道問題調整事務所、ウクライナ財務省、国際戦略研究所

翻訳

エァクレーレン

日本語版制作

照井裕子

編集

Jon McClure、Gareth Jones、宗えりか、本田ももこ、山口香子